遠距離現在 Universal / Remote
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- 開催終了
- 企画展
20世紀後半以降、人、資本、情報の移動は世界規模に広がりました。2010年代から本格化したスマートデバイスの普及とともに、オーバーツーリズム、生産コストと環境負担の途上国への転嫁、情報格差など、グローバルな移動に伴う問題を抱えたまま、私たちは2020年代を迎えました。そして、2020年に始まった国境のないパンデミックにより、人の移動が不意に停止されたものの、資本と情報の移動が止まる気配はありませんでした。かえって、資本や情報の本当の姿が見えてくるようになったと思えます。豊かさと貧しさ。強さと弱さ。私たちの世界のいびつな姿はますます露骨に、あらわになるようです。
展覧会タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」は、資本と情報が世界規模で移動する今世紀の状況を踏まえたものです。監視システムの過剰や精密なテクノロジーのもたらす滑稽さ、また人間の深い孤独を感じさせる作品群は、今の時代、あるいはポストコロナ時代の世界と真摯に向き合っているようにも見えます。本展は、「Pan- の規模で拡大し続ける社会」、「リモート化する個人」の2つを軸に、このような社会的条件が形成されてきた今世紀の社会の在り方に取り組んだ8名と1組の作品をご紹介します。
開催概要
チケット・料金
当日 | 1,500円(一般)、1,000円(大学生) |
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オンラインチケット | 1,500円(一般)、1,000円(大学生) |
- チケット取扱い:
・国立新美術館(3月6日から販売、開館日のみ)
・オンラインチケット(2月28日10時から販売開始) - 高校生、18歳未満の方(学生証または年齢のわかるものが必要)は入場無料。
- 障害者手帳をご持参の方(付添の方1名含む)は入場無料。
- 学校等の教育活動でのご来館についてはこちらをご覧ください。
- 会期中に当館で開催中の他の企画展および公募展のチケット、またはサントリー美術館および森美術館(あとろ割対象)で開催中の展覧会チケット(半券可)を国立新美術館チケット売場(1E展示室入口)で提示された方は、本展覧会チケットを200円割引でご購入いただけます。
- 国立美術館キャンパスメンバーズ加盟の大学等の学生・教職員は本展覧会を学生800円、教職員1,300円でご覧いただけます。国立新美術館チケット売場(1E展示室入口)でお求めください。
- その他の割引などお得な情報はこちらをご覧ください。
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会場での観覧券購入に次のクレジットカードと電子マネー等がご利用いただけます。
クレジットカード:MasterCard、VISA、JCB、AMEX、Diners Club、DISCOVER、銀聯、QUICPay 電子マネー:交通系IC、楽天Edy、WAON、nanaco、iD QR決済:auPay、BankPay、AliPay、WeChat Pay、PayPay、d払い、ゆうちょPay
展覧会タイトルについて
本展は、日に日に忘却の彼方へ遠ざかる 、ほんの少し前の3年間のパンデミックの時期を、現代美術を通して振り返る展覧会である。
今の時代を生きる私たちにとって、「遠さ」を感じることは、困難である。だが、その地理的な「遠さ」は決して打ち消すことはできない。コロナ禍では2メートルという距離が設定されたが、それは「飛沫が届かない遠さ」を確保するためだった。あるいは、入国制限や渡航禁止によって、国家間の「遠さ」が露呈した。停滞した物流は、地球に住む私たちに「遠さ」の認識を改めて突きつけた。ふだんは見えなかっただけ、意識にのぼらなかっただけで、もともと「遠かった」ことをこのパンデミックの時に認識したのだった。リモートワークの定着によって「遠さ」を隠蔽、解消することに成功はしたし、コロナが沈静化すると、早くも「遠さ」の感覚を我々は忘れてしまった。
タイトル「遠距離現在 Universal / Remote」は、常に遠くあり続ける現在を忘れないために造語された。本来は万能リモコンを意味するUniversal Remoteを、スラッシュで分断することで、その「万能性」にくさびを打ち、ユニバーサル(世界)とリモート(遠隔、非対面)を露呈させる。コロナ禍を経て私たちが認識した「遠さ」の感覚、また、今なお遠くにそれぞれが生きていることを認識するのは重要なのではないかという思いが、この題名に込められている。
本展のポイント
パンデミックに対する現代美術からの応答
世界的な緊急事態であった新型コロナウイルス感染症というパンデミックが始まった2020年からの約「3年間」が私たちにとってどのような時期だったのか。社会はいかにして今の姿に至ったのか。今後の私たちはどこに向かうべきか。ポストパンデミック社会と個人の在り方を現代美術で考察します。
グローバル資本主義社会で暮らす私たちを映し出す
本展は、「Pan- の規模で拡大し続ける社会」と「リモート化する個人」の2つの軸で構成されます。「Pan-」と「リモート」は、かけ離れているように見えますが、対立概念ではなくそれぞれがお互いを映し出す合わせ鏡のような存在です。本展覧会は、全世界規模の「Pan-」と、非対面の遠隔操作「リモート」の2つの視点から、グローバル資本主義や社会のデジタル化といった現代美術における従来のテーマを新たに捉えなおします。
「3年間」を経験した「現在」の鑑賞者とともに読み解く
本展出品作品の多くは2019年までに制作されたものであり、コロナ禍の日々の中で生まれた作品ではありません。現在の私たちは、作品が発表された当時、すなわちコロナ禍を経験する前と同じようにこれらの作品をみることはできるでしょうか。過剰な監視システムや精密なテクノロジーのもたらす滑稽さ、その中で生きる人間の深い孤独を感じさせる作品群は、今の時代、またポストコロナ時代の世界と真摯に向き合うものです。
世界が注目する国際的なアーティストたちの作品を展示
本展では、海外を拠点に活動する作家の作品が多く出展されます。
ニューヨークと北京を拠点として世界的に活躍する現代美術の巨匠、徐冰(シュ・ビン)による初の映像作品をはじめ、2010年代より現代美術の動向をリードしているヒト・シュタイエル(ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ミロス・トラキロヴィチとの共同制作)、最先端の科学技術と現代美術を融合するトレヴァー・パグレン、多様なメディアにおける芸術制作にハッカーの哲学を応用するエヴァン・ロスによる作品を、国立新美術館の展示空間に展開します。フォト・ジャーナリズムとアート・アクティヴィズムの領域を横断するデンマークの写真家ティナ・エングホフ、韓国の新進気鋭の映像作家チャ・ジェミンは本邦初紹介となります。また本展の2つのキーワードをまたがる地主麻衣子の映像作品、本展のために作品を再構成した井田大介、そして木浦奈津子の新作群を展観します。
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展示構成
「Pan-」の規模で拡大し続ける社会
感染を防ぎ、人流を抑制するための国家権力の強化と監視システムの容認という問題は、それなりの成果を上げながらも、同時にポストコロナ社会の大きな課題として残りました。人々はかつて経験しなかったほどに、国家の力と国民の自由のバランス感覚を試されているとも言えます。しかし資本と情報の移動は、それと関係なく加速を続け、人々を煽り続けるでしょう。近年のデジタル通貨導入の動きや、ブロックチェーンを基盤とするNFT(非代替性トークン)経済の過熱もまた、遠隔でも社会が機能し、拡大し続けるための仕組みでもあります。このような資本と情報の問題意識に着眼した作品として、井田大介、徐冰、トレヴァー・パグレン、ヒト・シュタイエル(ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ、ミロス・トラキロヴィチとの共同制作)、地主麻衣子をとりあげます。
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「リモート」化する個人
コロナ禍の間もこのグローバル社会は世界規模で拡大を続けます。しかし不思議なことに、逆説的に、個人のリモート化は進行してしまいます。オンラインで個人と個人が結びつき、家を出ずして国境をまたぐことは、もはや当たり前のことになっています。コロナ禍がリモート化を加速させましたが、今後一層、ますます地理的な距離感は消滅していくでしょう。縁もない、実際に見ることも訪れることもない世界へ向けて黙々と労働する姿は、どこか孤独で、底抜けの寂しさを感じさせます。それは、人間の心に大きな影響を与えるのではないでしょうか。「非接触」を前提に「遠隔化」される個人の働き方と居住についてティナ・エングホフ、チャ・ジェミン、エヴァン・ロス、木浦奈津子の作品を通して考えます。地主麻衣子の作品はこの2つのテーマを横断するのもでもあります。
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出展作家・作品
井田大介 Daisuke Ida
1987年鳥取県生まれ、東京都在住。2015年に東京藝術大学大学院美術研究科(彫刻専攻)を、2016年にMAD アートプラクティクスを修了。 近年の主な個展に「SYNOPTES」(Tezukayama Gallery、大阪、2023年)「あなたが鳴らしても鐘は止まない」(デカメロン、東京、2021-22年)、「Photo Sculpture」(3331 Arts Chiyoda、2018年)など。東京ビエンナーレ(2021年)や「日本国憲法典(part2)」(青山目黒、東京、2023年)などの芸術祭やグループ展にも参加している。主な受賞歴に第19 回岡本太郎現代芸術賞入賞(2016年)など。 |
《誰が為に鐘は鳴る》
井田は彫刻という表現形式を問いながら、目には見えない現代の社会の構造や、そこで生きる人々の意識や欲望を彫刻・映像・3DCGなど多様なメディアを用いて視覚化している。2021年に制作された3点の映像作品《誰が為に鐘は鳴る》、《イカロス》、《Fever》が、本展のための3部作として再構成される。いずれの作品でも「炎」が重要な要素となっており、熱がもたらす上昇気流やSNSの炎上などから「飛行」「上昇」「落下」のメタファーでコロナ禍社会を可視化する。
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徐冰(シュ・ビン) Xu Bing
1955年中国、重慶生まれ。北京とNY を拠点に活動。1987年に北京の中央美術学院版画専攻の修士課程を修了。 近年の主な個展に「Xu Bing: Gravitational Arena」(浦東美術館、上海、2022-24年)、「Xu One: Xu Bing」(ブルックリン美術館、2019-20年)など。2015年にアメリカ国務省芸術勲章を受章したほか、第14回福岡アジア文化賞(2003年)などを受賞している。 実在しない「偽漢字」や漢字のように見える英文「新英文書法」の創作、絵文字と記号のみで書かれた小説「地書」、廃材を用いたインスタレーション作品などで知られている。 |
《とんぼの眼》
本展では徐の初の映像作品《とんぼの眼》(2017年)を上映する。チンティンという女性と、彼女に片思いする男性、クー・ファンの切ないラブストーリーが語られる。しかし、この映画に役者やカメラマンは存在しない。全ての場面が、ネット上に公開されている監視カメラの映像のつなぎ合わせである。徐と彼の制作チームは、20台のコンピューターを使って約11,000時間分の映像をダウンロードし、若い男女を主人公にした物語に合わせて編集した。
<上映時間(81分)>
10:20-11:41 / 13:20-14:41 / 15:20-16:41 / 17:20-18:41*
*最終回(17:20-18:41)は金曜日・土曜日のみの上映です。
※上記の時間以外は《とんぼの眼》メイキング映像を上映いたします(約10分)
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トレヴァー・パグレン Trevor Paglen
1974年アメリカ、メリーランド州生まれ、ベルリンとニューヨークを拠点に活動。アート・インスティテュート・オブ・シカゴで修士号を、カリフォルニア大学バークレー校で地理学の博士号を取得。 近年の主な個展に「Trevor Paglen: Hide the Real. Show the False」(ノイエ・ベルリナー・クンストフェライン、ベルリン、2023年)、「Trevor Paglen: You’ ve Just Been F*cked by PSYOPS」(ペース・ギャラリー、ニューヨーク、2023年)など。東京電力福島第一原発事故に伴う帰還困難区域内で開催されているプロジェクト「Don't Follow the Wind」(2015年~)に参加している。主な受賞歴にマッカーサー・フェローシップ(2017年)、ナム・ジュン・パイク・アート・センター賞(2018年)など。 |
〈上陸地点〉、〈海底ケーブル〉、〈幻覚〉
パグレンは地理情報と軍事機密、マシンビジョン、監視と通信システム、AIによる自動生成イメージなどをテーマに、写真、映像、立体作品を制作している。本展では、大陸間を海底でつなぐ通信ケーブルの上陸地点の風景を撮影した〈上陸地点〉シリーズ、海に敷設されているケーブルを撮影した〈海底ケーブル〉シリーズ、パグレンが設計したAIエンジンが生成したイメージによる〈幻覚〉シリーズの3シリーズを展開する。
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ヒト・シュタイエル Hito Steyerl
1966年ドイツ、ミュンヘン生まれ、ベルリン在住。日本映画大学とミュンヘンテレビ映画大学でドキュメンタリー映画を学び、2003年にウィーン芸術アカデミーで哲学の博士号を取得した。 近年の主な個展に「ヒト・シュタイエル:壊れた窓の街」(ライプツィヒ美術館、2023年)、「ヒト・シュタイエル:データの海」(国立近現代美術館、ソウル、2022年)など。日本では「ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて」(2018年、水戸芸術館 現代美術ギャラリー)などのグループ展に参加。2017年に出版された『デューティー・フリー・アート:課されるものなき芸術 星を覆う内戦時代のアート』は2021年に邦訳版が出版されている(フィルムアート社)。Art Review の「Power100」ランキングでは2013年より現在まで10年連続入選、2017年には1位に選ばれた。 |
ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ Giorgi Gago Gagoshidze
1983年ジョージア、クタイシ生まれ、ベルリンを拠点に活動。トビリシ国立芸術アカデミー(2001–07年)、デン・ハーグ王立美術学院(2008–2010年)で学び、ベルリン芸術大学(2012–16年)にてヒト・シュタイエルに師事。
ミロス・トラキロヴィチ Miloš Trakilović
1989年ボスニア・ヘルツェゴビナ、トゥズラ生まれ、ベルリンとアムステルダムを拠点に活動。ウィレム国王学院(2009–12年)で学び、ベルリン芸術大学(2012–16年)にてヒト・シュタイエルに師事。
《ミッション完了:ベランシージ》
本展に出品される《ミッション完了:ベランシージ》は、2019年に開催されたシュタイエルの個展においてレクチャー・パフォーマンスとして発表された後、インスタレーションに再構成された。ファッションをキーワードに、1989年のベルリンの壁崩壊からの30年間の、格差という風景を永遠に見せ続ける資本主義の堂々巡りの旅を説く。
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地主麻衣子 Maiko Jinushi
1984年神奈川県生まれ、東京都在住。2010年に多摩美術大学大学院美術研究科を修了。2019年から2020年までヤン・ファン・エイク・アカデミーのレジデンスプログラムに参加。 主な個展に「MAMプロジェクト031:地主麻衣子」(森美術館、2023年)、「親密さと距離」(Centre A、バンクーバー、2023年)、「ブレイン・シンフォニー」(旧横田医院、鳥取、2020年/ Art Center Ongoing、東京、2020年)など。「Women's Lives 女たちは生きている―病い、老い、死、そして再生」(さいたま市プラザノースギャラリー、2023年)や「越後妻有 大地の芸術祭 2022」、「And again {I waitfor collision}」(KINGS Artist-Run: Side Gallery、メルボルン、2019年)など国内外の芸術祭やグループ展に参加している。 |
《遠いデュエット》
地主は映像、インスタレーション、パフォーマンス、テキストなどを総合的に組み合わせて「新しいかたちの文学的な体験」となる作品を制作している。本作品は彼女が自身の「心の恋人」とする詩人・小説家のロベルト・ボラーニョ(1951‒2003年)最期の地であるスペインを訪れる旅を題材にしている。現地で出会う人々との対話を通して日本の社会を再考する、5章からなる映像作品。
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ティナ・エングホフ Tina Enghoff
1957年デンマーク生まれ、コペンハーゲン在住。ニューヨークのインターナショナル・センター・オブ・フォトグラフィー (ICP) で写真を学ぶ。 本展に出品される〈心当たりあるご親族へ〉プロジェクトは2003年の個展(ニコライ・クンストハル、コペンハーゲン)にて発表された。その他近年の主な個展に「Displaced」(デンマーク王立図書館 ブラック・ダイアモンド、コペンハーゲン、2022年/シシミウト美術館、グリーンランド、2021年)、「移住者の記録」(フォトグラフィスク・センター、コペンハーゲン、2013年/ Gallery Tegen2、ストックホルム、2013年)など。スウェーデンのArbetets Museum が主催するドキュメンタリー写真賞を2018年に受賞した。 |
〈心当たりあるご親族へ〉
日本初出品の作家。エングホフは記録写真における表象と可視性の問題を扱う作品を制作している。主に北欧における植民地主義や福祉国家の制度的暴力、アーカイブの権力構造といったテーマに関心を持ち、コミュニティへの参加や共同制作、アート・アクティヴィズムを中心としたプロジェクトを実践する。〈心当たりあるご親族へ〉は孤独死した人の身元引受人を探すための新聞記事に着想を得ており、都市に存在する孤独を問う。
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チャ・ジェミン Jeamin Cha
1986年韓国生まれ、ソウル在住。2010年に韓国芸術総合学校美術学部を卒業後、2011年にロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで修士号を取得。 近年の主な個展に「Troubleshooting Mind I, II, III」(Kadist、サンフランシスコ、 2020年)、「Love Bomb」(サムユク・ビルディング、ソウル、2018年)など。「第14回光州ビエンナーレ」(2023年)などの芸術祭のほか映画祭にも参加しており、第69回オーバーハウゼン国際短編映画祭(ドイツ、2023年)では審査員特別賞を、第47回DMZ 国際ドキュメンタリー映画祭(韓国、2022年)では特別賞を受賞した。 |
《迷宮とクロマキー》
日本初出品の作家。映像、パフォーマンス、インスタレーションと執筆活動まで、多岐にわたる媒体で制作を続けている。チャの作品は、身体と心理や感情との関係性を扱い、表現しがたい経験を持つ個人に焦点を当てる。また、技術の進歩によって縮小していく未知の領域を保存することに関心を持っている。映像作品《迷宮とクロマキー》では、「ネット強国」を自負する韓国社会の片隅で、「配線」という目に見えないインフラを作る作業者の姿から、大量の情報を支える個人の労働が浮かび上がる。
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エヴァン・ロス Evan Roth
1978年アメリカ・ミシガン州生まれ、ベルリンを拠点に活動。メリーランド大学で建築学を学び、パーソンズ・スクール・オブ・デザインでデザイン&テクノロジーを専攻しMFAを取得。 本展に出品される《あなたが生まれてから》はジュ・ド・ポーム国立美術館(パリ、2020年)やMOCAジャクソンヴィル(フロリダ、2019年)においても披露された。その他近年の主な個展に「Skyscapes: Berlin-Mitte」(/rosa、ベルリン、2023年)、「Red Lines with Landscapes:Portugal」(フィデリダデ・アルテ、リスボン、2020年)など。目の動きだけで絵が描ける装置《The EyeWriter》の開発プロジェクトに携わり、第14回文化庁メディア芸術祭(2010年)で優秀賞を獲得した。 |
《あなたが生まれてから》
ロスは私たちを取り巻く環境を完全に作り変える力をもつ点に芸術作品の制作とハッキングの相似性を指摘し、絵画や彫刻、ウェブサイトまで多様なメディアに応用する。《あなたが生まれてから》は彼が2021年から取り組んできた〈インターネット・キャッシュ自画像〉シリーズのうちの一つで、自身のコンピューターのキャッシュ(cache)に蓄積される画像データを抽出して空間を飽和させるインスタレーション。本作では、彼に次女が誕生した日以降にキャッシュされた画像を用いて没入的な空間を作り出す。
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木浦奈津子 Natsuko Kiura
1985年鹿児島県生まれ、鹿児島県在住。2010年に尾道市立大学大学院美術研究科油画専攻を修了。 近年の主な個展に「目の前をよぎる」(Takashi Somemiya Gallery、東京、2022年)、「表面をなぞる」(EUREKA、福岡、2022年)など。2019年に第45回鹿児島市春の新人賞を受賞し、受賞記念展として「うみとこうえんと、」(鹿児島市立美術館、2021年)が開催された。このほか「VOCA展2022 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─」(上野の森美術館、2022年)などのグループ展に参加している。 |
《こうえん》
木浦は一貫して風景、特に日常の景色の油絵を描き続けている。カメラで捉えた近郊の風景をもとに描かれる彼女の作品は、単純で抽象的でありながらも、見たときの風景そのままを保存する不思議な魅力をもつ。《うみ》《こうえん》《やま》など身近な風景を通じて、私たちの生活の変わらない本質を捉える。会場では、新作を交えて大小さまざまな風景を、木浦自身がインスタレーションのように壁面いっぱいに展示する。
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展覧会カタログ
展覧会カタログには小説家・福永信が書き下ろし掌篇9 点を寄せたほか、ブックデザインを村尾雄太が手がけました。
福永信 Shin Fukunaga
小説家。1972 年生まれ。著書に『星座から見た地球』、『一一一一一』、『実在の娘達』など。編著として『こんにちは美術』、『小説の家』などがある。
村尾雄太 Yuta Murao
グラフィック・デザイナー。1990 年生まれ。アート、ファッション、音楽などの領域に関わるグラフィックデザインやブックデザイン、ウェブデザインのプロジェクトに携わる一方、2017年よりデザインスタジオwell のメンバーとしても活動を行う。
[エッセイ]「遠距離現在」|尹 志慧
[対談]「イメージの自律性、つまりイメージが人を殺すことは知っていたが、今やその指は引き金にかけられた」|ヒト・シュタイエル、トレヴァー・パグレン
[インタビュー]「アートがもたらす変化」|ティナ・エングホフ
[掌編]『遠距離現在』福永 信
「遠距離現在 Universal / Remote」図録
サイズ:25.7cm×18.2cm(B5判)
ページ数:141ページ
言語:日英バイリンガル
価格:1,500円(税込)
発行日:2023年10月6日
デザイン:村尾雄太
編集:浅見旬、尹 志慧
発行:国立新美術館
ISBN:978-4-910253-10-7
鑑賞ミニガイド
movie
遠距離現在 Universal / Remote|ARTIST MESSAGE
ビデオグラフィー:丸尾隆一、テクニカルサポート:冨田了平、撮影アシスタント:小寺優希子、モーショングラフィック:有佐祐樹
アーティスト・リレー・トーク
徐冰(シュ・ビン) 講演会
ヒト・シュタイエル × トレヴァー・パグレン 対談
関連図書
アートライブラリーで紹介していた企画展関連資料のリストをご覧いただけます。過去の企画展関連資料のリストはこちら