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蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる

  • 開催終了
  • 企画展

2023 年6月29日より、国立新美術館とサンローランは国際的に大きな注目を集めてきた現代美術家、蔡國強(ツァイ・グオチャン/さい・こっきょう、1957年生)の大規模な個展「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」を開催します。国立新美術館は、国内外の現代美術の振興に努めてまいりました。本展覧会は、館長である逢坂恵理子の企画によるものです。また、アンソニー・ヴァカレロがリードするサンローランにとって、本展を開催することは、同ブランドの使命ともいえる、ビジュアルアートや映画、音楽など、様々なクリエイティビティへのサポートの最も新しい機会となります。

1957年末に中国に生まれ育った蔡は、1986年末に日本に移り住み、1995年にアメリカに渡るまでの約9年の間に、火薬を用いた独自のスタイルを開拓しました。
蔡は数十年にわたり、東洋古来の哲学や思想に立脚しつつ、風水や占星術にもつながる宇宙、そして目に見えない世界に魅了されてきました。同時に、そうした果てしない世界への現代的アプローチとしての科学技術への興味や、現代の社会問題への感受性と省察を原動力に制作しています。蔡の芸術の大きな特徴は、火薬を創造的に用いて作品を生み出してきたことです。神話的で人類学的な壮大な世界観を表明した火薬ドローイングやインスタレーション、屋外爆発イベントなど、スケールの大きな制作は国際的に高く評価されてきました。

1991年に東京のP3 art and environment で開催した個展「原初火球 The Project for Projects」は、日本で活動した時代の最初の、そして蔡のアーティストとしての生涯のマイルストーンとなる重要な展覧会でした。展示の中心となった同名のインスタレーションでは、火薬で描いた7つの屏風ドローイングが爆発的に放射状に広がるように配置され、蔡が「外星人のため」と「人類のため」に実現しようとするプロジェクトを表現しています。「原初火球」という言葉は、蔡が宇宙物理学と老子の宇宙起源論に基づいて提示したもので、宇宙の始まりを表します。

本展覧会「蔡國強 宇宙遊うちゅうゆう ―〈原初火球げんしょかきゅう 〉から始まる」は、蔡國強が30年前に発表した展覧会「原初火球」を蔡の芸術における「ビッグバン」の原点と捉え、そして、この爆発を引き起こしたものは何であり、その後今日まで何が起こったかを探求します。

宇宙と見えない世界との対話を主軸に、作家として歩み始めた中国時代、芸術家としての重要な形成期である日本時代、そしてアメリカや世界を舞台に活躍する現在までの創作活動と思考を遡る本展覧会は、宇宙が膨張するかのように拡大してきた蔡の活動をたどる壮大な旅路のような個展です。

国立新美術館の柱も壁もない2000㎡の大きな企画展示室1Eの、広場のような悠々とした空間で、一方には、歴史的なインスタレーション〈原初火球〉が再現され、その中には、ガラスと鏡を使った新作の火薬絵画3作品も含まれます。隣り合ったもうひとつの核は、LEDを使った大規模なキネティック・ライト・インスタレーション《未知との遭遇》であり、観客は作品の中を自由に歩きながら体感することができます。本展覧会では、国内の国公立美術館の所蔵作品と、日本初公開のガラスや鏡に焼き付けた新作を含む作家所有の約50件の作品が展示され、知られざる多数の貴重なアーカイブ資料や記録映像、そしてアーティスト自身による一人称の説明が掲示されています。

展示室全体がまるでひとつのインスタレーションのような展示を通じて、蔡の深遠かつ軽やかな思考と実践の旅路を追体験していただければ幸いです。

本展を企画した国立新美術館長の逢坂恵理子は、「宇宙への憧憬と未知への好奇心によって、時空を超えた両義的な表現を模索し続け来た蔡が提示する作品群は、破壊と創造、静と動、不可視と可視、混沌と秩序、そして誕生と死を表象する。それらは、宇宙のかけらである私たちに、改めて宇宙からの視点と存在の原点について示唆を与えてくれる」と述べています。
また、蔡自身は「『原初火球』時代の私は、心を熱くして、物質主義、人心の劣化、生態環境の破壊、宇宙の未来など、20世紀の人類と地球の諸問題について考えていた──自分が外星人になったかのようなスタンスで。現実は窮屈だったが、空には星が輝いて、私の「宇宙遊」を照らしてくれた。人類は疫病との共存を強いられ、経済の衰退、グローバル化の後退、異文化対立などの地球社会のジレンマに直面している。かつて人類の創造力の前衛的な精神を率いた現代美術もまた、衰退の一途を辿っている。いま30年前の『原初火球』の精神を振り返ることは、かつての私自身と再会することであり、若き芸術家にとって永遠の故郷である宇宙へと戻ることである。宇宙的ビジョンの追求と実践について議論することは、文化と芸術が衰退してる『今』に特別な意味を与えられるはずだ」と語っています。


「〈原初火球〉—それは私の思想とビジョンに基づく出発であり、今日まで私に付き添ってきた。」

────────蔡國強

開催概要

会期

毎週火曜日休館

開館時間

10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで

会場

国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558東京都港区六本木7-22-2

主催

国立新美術館、サンローラン

観覧料

(税込)

当日 1,500円(一般)、1,000円(大学生)
  • 高校生、18歳未満の方(学生証または年齢のわかるものが必要)は入場無料。
  • 障害者手帳をご持参の方(付添の方1名含む)は入場無料。
  • 学校等の教育活動でのご来館についてはこちらをご覧ください。
  • 7月30日(日)に子どもたちと家族のためのイベント「国立新美術館ファミリー・デー」を開催。詳しくはこちらをご覧ください。
  • チケット取扱い:
    ・国立新美術館(開館日のみ)
    ・オンラインチケット
    ・チケットぴあ
  • 会期中に当館で開催中の他の企画展および公募展のチケット、またはサントリー美術館および森美術館(あとろ割対象)で開催中の展覧会チケット(半券可)を国立新美術館チケット売場(1E展示室入口)で提示された方は、本展覧会チケットを100円割引でご購入いただけます。
  • 国立美術館キャンパスメンバーズ加盟の大学等の学生・教職員は本展覧会を学生800円、教職員1,300円でご覧いただけます。国立新美術館チケット売場(1E展示室入口)でお求めください。
  • その他の割引などお得な情報はこちらをご覧ください。
  • 会場での観覧券購入に次のクレジットカードと電子マネー等がご利用いただけます。
    クレジットカード:UC、MasterCard、VISA、JCB、AMEX、Diners Club、DISCOVER
    電子マネー:Suica(スイカ)、PASMO(パスモ)、ICOCA(イコカ)等、iD その他:J-Debit、銀聯
お問合せ

050-5541-8600(ハローダイヤル)

作家プロフィール

蔡國強(ツァイ・グオチャン/さい こっきょう)

みどころ

作品リスト

蔡國強展 作品リスト(日本語・英語)[756 KB]

展示構成

I. 「原初火球」以前──何が「ビックバン」を生んだのか?

父の影響で、幼少期より描くことを好んだ蔡は、爆発によって放射されるエネルギーの緊張感に魅了されて1984年に故郷の泉州で、火薬を使った作品制作を始めました。破壊と再生だけではなく、極限における逆転の法則を探求していたのです。火薬を使用したのは、若い作家が、社会的統制に対して反発心を持っていたからでもあるでしょう。 中国で活動していた頃から察は、人間と宇宙、そして地球の危機を主題にした表現を探求し始めていました。


来日後も、風水や気功、老荘思想、『易経』などに基づく中国古来の宇宙観をベースにしつつ、伝統と文化が息づくと同時に高度なテクノロジーに満ちた日本の現代社会や、そこで知った国内外の現代美術、また、宇宙物理学の最新の成果などに大いに魅了されました。
幼少期から続く、宇宙そして見えない世界への憧憬に、日本での経験が加わり、やがて、〈外星人のためのプロジェクト〉と名付けられた一連のシリーズが生まれました。1989年に多摩川で行われた《人類の家:外星人のためのプロジェクトNo. 1》は、その後数多く構想された爆発プロジェクトの最初の試みでした。
蔡の爆発シリーズ〈外星人のためのプロジェクト〉は、すぐさま日本を超えてヨーロッパに渡りました。1990年、南フランスのグループ展への招聘を機に行った巨大な爆発プロジェクト、《人類がその45.5億年経った星に創った45個半の隕石クレーター:外星人のためのプロジェクトNo. 3》は、日本の美術関係者の目に止まり、「原初火球」展が誕生するきっかけとなりました。

II. ビッグバン:「原初火球 The Project for Projects」1991年2月26日~4月20日

1990年12月8日、蔡は33歳になりました。この日の日記にはこう記されています。「あたかも長い年月、辛酸を舐め尽くすように、人生は慌ただしく過ぎていく。時を刻む速度は、加速度が増す。私たちが目にする太陽系の外の星の光は、200年前に瞬いたもので、その時私たちはまだ誕生すらしていないのだ。さらに遠い星が光を発した時、紀元前6世紀に生きた老子さえ誕生していない。もっと遠い星が光を発した時には人類の物語も始まっておらず、人類はまだ微生物だった。こうして考えると、33歳の私が若いのは勿論のこと、老子も人類もみな若いのである。」


2か月後、東京のP3 art and environment で開催した個展「原初火球 The Project for Projects」で蔡は、爆発プロジェクトの設計図ともいうべき屏風仕立ての火薬ドローイング七隻を放射状に並べて展示しました。蔡は宇宙物理学の「原始火球」に、老子の「有物混成先天地生」(物ありて混成し、天地に先んじて生ず)という宇宙起源論に対する理解も重ね、「原初火球」と名付けました。一方、爆発を想起させる放射状の構成は、世界の起源を示すだけでなく、アーティストとして大きな一歩を踏み出した蔡自身のエネルギーの発露でもありました。蔡は、展覧会と同名の記念碑的なインスタレーションに含まれるテーマやイメージをその後も探求し続けました。

III. 「原初火球」以後

1990年代に蔡は、爆発シリーズ〈外星人のためのプロジェクト〉を世界各地で展開すると同時に、それを大型の火薬ドローイングでも表現しました。福岡の「中国前衛美術家展〈非常口〉」(1991年)のために構想した爆発プロジェクトに由来するドローイング《天地悠々:外星人のためのプロジェクトNo. 11》は、生命の起源と宇宙の秩序との間に強い関係があるという蔡の信念を表明しています。

蔡は、ヨーロッパで次々と大規模なプロジェクトを推進する一方、1993年に中国のゴビ砂漠において、世界各国のボランティアと現地の人々の協力を得ながら、壮大な爆発プロジェクト《外星人のためのプロジェクトNo. 10:万里の長城を1万メートル延長するプロジェクト》を実現しました。この爆発イベントは、日本でも広く報道されました。そして、1994年春にいわき市立美術館で、同年秋に世田谷美術館で個展を開いた後、1995年にアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の日米芸術家交流プログラムの助成を受け、ニューヨークに渡りました。以後、世界各地の重要な美術機関で多く活動し、国際的な現代美術家としての名声を確立しました。

2008年の北京オリンピック開会式で蔡は、1990年に構想して以来実現しなかった《大脚印-ビッグフット》という着想に基づく壮大な花火プロジェクトを行い、世界中の人々を魅了しました。人間が定めたさまざまな境界や障壁を越えていく巨人の足跡というコンセプトは、33メートルもの火薬ドローイング《歴史の足跡》でさらなる深化を見せて、今回の展覧会で展示される予定です。2015年、21年間に幾度も失敗した爆発プロジェクト《スカイラダー》が作家の故郷泉州の小さな漁港で実現し、高さ500メートルの壮大な花火の梯子が天と地を結びました。

未知との遭遇
2019年に蔡は、《未知との遭遇-メキシコのための宇宙プロジェクト》と題した大規模な花火を行いました。古代文明の中心地のひとつであり500年前にわたりスペインが支配したメキシコのさまざまな歴史や文化、宇宙観の収斂した姿を、蔡は現地の伝統的な手仕事の技術を用いて建てられた巨大な花火塔によって表現しました。


本展覧会では、この花火塔がモーターで駆動し、コンピューター制御された光のスケッチのような大規模なLED インスタレーションへと変貌を遂げ、国立新美術館の展示空間に合わせて縦横無尽に広がる「宇宙のジャングル」を表しています。蔡は、銀河、ワームホール、宇宙船、アインシュタインとホーキング、原始人と宇宙人、UFO、空中の天使など、宇宙にまつわる古今東西のさまざまなイメージをLEDで表現します。これらは、古来の人類の宇宙への切望を表現し、未来に不安を抱く人類が、これまで以上に未知の世界に憧れていることを伝えています。点滅するインスタレーションは、向かい合う〈原初火球〉の屏風や、周囲を取り囲む作品を照らしだし展覧会のテーマと作品群を融合します。


IV. 〈原初火球〉の精神はいまだ健在か?

展覧会の準備中、蔡は「『原初火球』展の精神は、絵画への愛、美術史に対するけじめ、そして社会的発言の誘惑のうちに見失われてしまったのでしょうか。それとも、その精神はつかみどころがなく、短期間消えてしまったように見えても、一瞬姿を消した後、また精気をみなぎらせて再浮上するものなのでしょうか。」と自問しました。

蔡は続けます。「インターネットの発達はグローバリゼーションを促進し、AI(人工知能)やインテリジェント化などデジタル革命をもたらして、社会構造にも生活様式にも前例のないスピードで劇的な変化が続いています。1990年の日記に私はこう書いています。『コンピューターの時代、情報時代の到来にワクワクしている。この大変革の時代を生きるアーティストであることに心から興奮している。印象派が産業文明の発展に直面したとすれば、私たちはより本質的でより偉大な時代と対峙することになるだろう。この自覚から、より一層の努力をしなくてはという覚悟が生まれる』今、私はAIなどの先端技術に再び興奮を覚えています。自分が向き合っている時代が最高に素晴らしいと常に思っているからなのです!」2017年以降、蔡はAI、AR、VR、ブロックチェーンやNFTなど、最先端の技術を通して現代美術の可能性を探求し続けています。本展では、いくつかの新しいメディア作品を紹介します。

「蔡國強といわき」

蔡國強は1986年12月から1995年9月までの約9年間を日本で過ごしました。その中でも、海岸沿いの町であるいわきは、蔡の生活と芸術の両面において第二の故郷ともいえる特別な場所です。蔡と妻の呉紅虹は、ともに人懐こい性格もあって、いわきの人とすぐに親しくなりました。ここの人の多くはアートとは無縁のようでしたが、若き蔡の夢とアートの熱い想いに共感してくれました。みな「面白そうだからやってみましょう!」「任せてください!」と、まっすぐな気持ちで熱心に手伝いを申し出てくれたのです。そして、蔡の作品を必ず実現させるという決意を込めて「実行会」という名のグループを結成しました。

この30数年の間、蔡といわきの仲間たちは、一緒に小さな漁村から船出し、世界へと協働し成長してきました。その間に、蔡も友人たちも、髪に白髪が混じりはじめ、動きもやや軽快ではなくなってきています。そのような長年の友情はアートを通じて、国家間の政治的、歴史的な違いを乗り越えてきたのです。

1995年に蔡が遠く離れたニューヨークに移住した後も、いわきの友人達によって「蔡國強通信」が定期的に発行され、いわきの人々に蔡の近況を知らせてくれていました。このように生涯を通じ、お互いのかけがえのない友人として出会えたことは、本当に幸運なことです。そして蔡といわきとの物語は続いていきます。
 
「この土地で作品を育てる、ここから宇宙と対話する、ここの人々と一緒に時代の物語をつくる。」

蔡國強

いわきプロジェクト《満天の桜が咲く日》

展覧会の開幕に先立つ6月26日、蔡は福島県いわき市で三十年前に地元の友人達と協働で実現した爆発プロジェクト《地平線:外星人のためのプロジェクトNo. 14》と同じ海岸で、サンローランからのコミッションワークである白天花火《満天の桜が咲く日》を、プロジェクト実行委員会の主催により実施した。

サンローランについて

1961年にフランス、パリで設立されたイヴ・サンローランは、世界で最も著名なファッションハウスの一つです。当初はオートクチュールのメゾンでしたが、後にプレタポルテのパイオニアとなり、伝説的な創業者がファッション、アート、社会の関係に革命を起こしました。
サンローランは、創業当初から、ファッションにとどまらず、さまざまなクリエイティブな形態と関わり、影響を与え続けてきました。この多様な芸術表現との対話はアンソニー・ヴァカレロの先見の明と、フランチェスカ・ベレッティーニのリーダーシップのもと今日も続いており、これを通じてブランドは世界観を広げさらに発展を続けています。

関連図書

展覧会図録

中国出身の国際的芸術家、蔡國強の大規模個展「蔡國強 宇宙遊 —〈原初火球〉から始まる」展の図録。東洋哲学、社会問題を作品の基本コンセプトとし、火薬絵画、インスタレーションや屋外爆破プロジェクトなどで評価されてきた蔡は、1986年末から約9年間、美術家としての成長に重要な時期を日本で過ごし、1995年からはニューヨークに拠点を移して活動してきました。本書では、宇宙や見えない世界などをテーマに、作家の原点となった展覧会「原初火球」を宇宙の誕生になぞらえた起点とし、作家自身の活動の旅をたどる。貴重な初期作品から代表作、そして近年の作品に至るまでを紹介するとともに、プロジェクトのスケッチ、火薬のドローイングや絵画作品など、作家エッセイも含む豊富な資料を掲載。日英バイリンガル。

「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」図録
サイズ:A4変形(29.1×22.5cm)
ページ数:256ページ
言語:日英バイリンガル
価格:4,290円(税込)
発行日:2023年6月27日
監修:蔡國強
発行:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 美術出版社



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