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ペインタリネス 2022

PAINTERLINESS 2022 PAINTERLINESS 2022

石川裕敏 圓城寺繁誉 河合美和 岸本吉弘 善住芳枝 真木智子 渡辺信明
【テキスト 尾崎信一郎】

Venue

ギャラリー白 ギャラリー白3 ギャラリー白kuro

Gallery HAKU

Period

2022年8月22日(月) - 9月3日(土)

Exhibition Outline

ペインタリネス 2022 PAINTERLINESS 2022 PAINTERLINESS 2022 石川裕敏 圓城寺繁誉 河合美和 岸本吉弘 善住芳枝 真木智子 渡辺信明
【テキスト 尾崎信一郎】

PAINTERLINESS 2022

ペインタリネスとカラーフィールド
尾崎 信一郎
1995年に始まった「ペインタリネス」も今年で23回目、四半世紀を超えた。特にこの数年、私たちはパンデミックというかつて経験したことのない災厄に見舞われ、展示を見に行くことさえままならないという異例の状況を過ごした訳であるが、今年に入りようやく光明が見えてきたことは、各地の美術館で注目すべき展覧会が予定通り開催されていることからも理解されよう。なおもいくつかの展示を未見であることはもどかしいが、「ペインタリネス」と関連して必見の展覧会といえばDIC川村記念美術館で現在も開催中の「カラーフィールド 色の海を泳ぐ」を措いてない。私も早々に訪れ、大きな感銘を受けた。しかし一方でいくつかの疑問が浮かんだことも率直に告白しておく。
「ペインタリネス」と「カラーフィールド」はいかなる関係にあるのか。末節的に感じられるかもしれないが、まずこの点を整理しておきたい。今まで何度か繰り返したとおり、「ペインタリネス」とは美術史家ハインリヒ・ヴェルフリンがルネッサンス美術とバロック美術を比較する際に用いたリニア/ペインタリーという二分法に由来し、クレメント・グリーンバーグは抽象表現主義絵画のうち、カラーフィールド・ペインティングと呼ばれるロスコやニューマンらの絵画をペインタリーな抽象絵画と呼んだ。したがってロスコやニューマンの傑作を所蔵している/かつて所蔵していたこの美術館でこの伝統に連なる作家たちの大規模な展覧会が開催されることはまことに当を得ている。しかしながら実際に展示されている作家たちはいわゆる抽象表現主義に属するのではなく、彼らを継ぐルイスやノーランドといった一世代下の作家たちなのである。(このためカタログや掲示では「カラーフィールド・ペインティング」という言葉を避けて「カラーフィールド」が多用されている)これらの作家たちを高く評価したのはグリーンバーグその人であり、このような経緯を踏まえてこれらの絵画に「ポスト・ペインタリー・アブストラクション」の名を与えるとともに同名の展覧会を企画さえしている。今回の展覧会はトロントの所蔵家のコレクションによってこの系譜に連なる作家たちを紹介する内容であり、ルイスやフランケンサーラーといったよく知られた画家からジャック・ブッシュ、フリーデル・ズーバスといったほとんど知られていない作家にいたる40点余りの作品で構成されている。
素晴らしい展覧会であった。作品の大半は縦向きには私たちの背丈を越え、横向きには視野を超えて広がる。多くの作品でステイニング技法が使用され、カンヴァスと境界なき色彩が一体化され、めくるめくヴィジョンが広がる。物質感のない画面は視覚のみに訴求するから、私たちはグリーンバーグがいうところの「非実体化され、重みを欠き、蜃気楼のごとくただ視覚的にのみ存在する」作品の一つの範例を見る思いだ。私も多くの絵画を見てきたが、このような体験はこれら一連の絵画以外にありえず、グリーンバーグやマイケル・フリードがこれらの作品にモダニズム絵画の絶頂を見たことの妥当性をあらためて認識した。
しかし同時に私は先に述べたペインタリーな抽象表現主義絵画、ロスコやニューマン、あるいはスティルとの間に決定的な断絶をも感受せざるを得なかった。言語化するのが難しいギャップであるが、カラーフィールドの絵画は壮麗ではあっても強度を欠いている。理由の一つは明らかである。絵具が物質として実体化されないカラーフィールドの絵画は表面の存在感に劣る。(一方で後期に極端に物質的な画面に転ずるオリツキーのごとき画家も存在するが、この問題はひとまず措く)色彩の重層によっていずれも見る者の視線を内部へと誘うロスコとルイスを比較する時、この点は明らかであるし、実際に同じ美術館のロスコ・ルームを訪れることによって直ちに体験することができよう。ロスコのにじみ出るような色彩は時に宗教的な法悦さえもたらすが、ルイスのステイニングは物理的な作用の痕跡にすぎず、深みに欠けるのだ。
さらに私は絵画の主題性がこの問題と関わっているのではないかと考える。ロスコやニューマンは作品の主題を重視し、彼らの絵画はしばしば悲劇や記憶、神話といった重い主題と関連づけられた。そこに第二次大戦という惨禍の残響をうかがうことは容易である。逆にカラーフィールドの作家たちは主題なしに絵画をどこまで強化できるかを実験したといえるかもしれない。おそらく彼らの作品の破格のサイズはこの点に由来する。しかしあらためて問おう。オリツキーの色面の広がりと例えばニューマンの《ワンメント!》の凝縮のいずれに私たちは強い存在感を感じるだろうか。私は両者をともに傑作と呼ぶことに躊躇しない。しかしこれら二つの絵画の間に決定的な隔たりも感じざるを得ないのだ。
さて、ペインタリネスである。私たちは現在、生涯において初めて一つの国が暴力によって他国を蹂躙し、支配しようとする異常な事態に立ち会っている。無数の人々が血を流し、難民となり、家族が引き裂かれていく。かかる状況の下で筆を握ることはいかなる意味をもつか。この展覧会は私が信頼するヴェテランの作家たちのグループ展として長く引き継がれてきたから、作品のクオリティーについては確信している。今年の展示で私が興味を抱くのは絵画の主題という点に関して彼らがどのような進境にあるかという点だ。むろん抽象絵画において暴力という主題がいかに深く画面の中に秘匿されるかという点は現在話題となっているゲルハルト・リヒターの作例からも明らかである。この数年、私はペインタリネスの作家たちにおける風景という主題との関係について論じてきた。風景とはその前に立って眼差しを向けることによって発生する。すなわち見るという意志において成立する主題であった。風景という主題は画家が人として対象から目を逸らさないことを暗示しているかもしれない。現実と向かい合うことによって絵画はいかなる強度を帯びうるか。現実はいかにして絵画に反映されうるか。私はかつてペインタリネスの倫理性を説いた。苛酷な現実の中で私たちが向かうべきはペインタリネスの充実であってカラーフィールドの壮麗ではない。
(おさき・しんいちろう 鳥取県立美術館整備局美術振興監)

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日曜休廊
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11:00 ~ 19:00
(土曜 17:00まで)

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Updated Date:2022.8.24
Created Date:2022.8.24