ID:60186
戸田悠理「Beautiful Strangers in Ourselves」 Yusuke Toda "Beautiful Stranger in Ourselves"
Venue
児玉画廊
KodamaGallery | Tokyo
Period
2019年2月23日 - 3月30日
Exhibition Outline
戸田悠理「Beautiful Strangers in Ourselves」 トダユウスケ「Beautiful Strangers in Ourselves」
Yusuke Toda "Beautiful Stranger in Ourselves"
拝啓 時下益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
児玉画廊(白金)では2月23日(土)より3月30日(土)まで、戸田悠理「Beautiful Strangers in Ourselves」を下記の通り開催する運びとなりました。
児玉画廊では2017年ART STAGE SINGAPORE(アートフェア)以降、ignore your perspective 36「明晰夢」(2017年、児玉画廊 白金)、ignore your perspective 46「Pandemonium」(2018年、児玉画廊|天王洲)と段階的な紹介を経て、今回が戸田の児玉画廊初の個展となります。戸田の作品は、ネットの画像検索で様々なイメージを集め、画像加工で改変を施して構成したものを下絵とし、それを印刷かと見紛うほどの精巧さでキャンバスに描き出します。下絵の時点ではパソコン上で描き変え作業を行い、例えば、波はベジェ曲線に、自然の写真も色分解されたデータへとコンバートします。夕焼けはグラデーション、人物の表情は消しゴムツールやペンツールで様々に置き換えられ、構成を作り込んでいきます。完成作を見ると、モチーフが画面一杯に散りばめられた賑やかな画面構成はさながらデジタルコラージュのようですが、間近に見るとそれはやはり紛れも無いペインティングであり、しかも引用元となる画像のニュアンスの違いに合わせて見事に使い分けられている絵具の質感や筆触、その描画技術の高さには目を疑うものがあります。
初期の作品では、静かな面持ちが印象的な人物画を描いた上に、対照的な馬鹿げた落書きのような線描を重ねた作品シリーズ、また、作家が「ハッシュタグ(#)」シリーズと呼んでいる、SNSで多用されるハッシュ記号検索によって特定のキーワードからピックアップした画像を題材に描いた作品などがあります。戸田の描く作品は、対象物そのものよりもそのイメージを改変したり意味・関係性を作り変えることに関心が向けられているように思えます。オリジナルの何かがあり、それに対して改変する、あるいは書き重ねるという行為が機能的に効果を発揮するためには、ジュネットの「パランプセスト」にあるように「間テクスト性」、つまり、元ネタやルールが分かると面白さが成立する、という「お約束」がベースになります。教科書に落書きするにしても元が偉人のポートレートだと分かるのとそうでないのでは可笑しさが異なるでしょうし、和歌で言えば古歌と本歌取の関係です。コラージュやアプロプリエーション、シミュレーショニズム、それに与する美術表現が凡そこの考えに類しているとするなら、戸田の場合は、そういう意味においては引用や剽窃をベースにした面白さの「お約束」を無視し、前提を排した似て非なるものです。明確にオリジナルの画像なりモデルがあるにも関わらず、そのオリジナルの帰属性には全く関与せず、興味は引用・改変する行為そのものに傾注しているのです。
一般的に画像検索をする場合、山だの川だのといった漠然としたキーワードから徐々に具体的に絞り込んでいくことでより目的に近い画像へと到達していくものですが、SNSのハッシュ機能は、投稿者が誘導したい目的に沿って意外な画像とキーワードが紐付けされていることがあります。結果として、#空とキーワードを打ったのに空の景色ではなく空が映った水たまりの画像がヒットしたり、想定外のイメージと遭遇することも往々にしてあります。戸田にとってはSNSのプラットフォームは意図しないイメージとの突然の邂逅の場であり、無尽蔵のイマジネーションの源泉として機能しているのです。そこから得られる画像は、戸田の意識外にあったもので、自発的なイメージではないにも関わらず、戸田を突き動かす字義通りの動機たりえるのは、美しいとか面白いといったその画像に対する特別な感情からではなく、戸田がその画像との邂逅によって何を起こし得るか、という予測変換のような現象が戸田の中に起こるからです。
SNSの発達に伴い、SNSアカウントが自己の一つの在り方として認識され、一種のアイデンティティを形成している、と作家は言います。本来はアカウント所有者が誰であるかお互いに明確で、実際に面識のある知人とのコミュニケーションツールとして発達してきたSNSですが、連鎖的なコミュニティの構築によって薄く広く遠い対人関係が成立、対面する必要がない一方的な発言の許容、それらは逆に匿名性を助長し、偽名を使ったり、別人になりすますことが容易な側面も持っています。結果的に、ある種の自己防衛法としても、一人が複数のアカウントを使い分け、それに応じた別人格をこともなげに演じるような状況が、すでに当たり前の事として受容されています。むしろ好意的に、遊興のひとつとしてさえ成立しているかもしれません。かつてはユングの「ペルソナ」などで論じられてきた内在する自己と外面的自己の違い、あるいは現代的には「キャラ」(コミュニティ内における自身の役割的性格)を演じること、そういった自己の複数的な在り方をはっきりと可視化したのが現代のSNSであり、その自分の中にある別人が対外的にはまさに全くの他人(Stranger)として認識されているのです。SNSの様にいくつもの別人・別物(Strangers)に扮し、自由に行き来する術を絵画に持ち込んで見せるのが戸田の作品なのです。
今回の個展では、シルクスクリーンの技法を転用した絵具によるドットプリンティングなど、幾つか新たな表現もご覧頂けます。一部の作品では、部分的に筆による描画に加えて、パソコン上で加工したデータを自作でシルクスクリーン製版し、インクではなく絵具を使って刷り上げています。この技法によって、明らかに手で描いたのではない機械的・規則的な肌理が画面に加えられます。下絵作成時にオリジナル画像から形態を改変する、という戸田の制作プロセスに、もう一段階、質感の変換を加えた、ということになるでしょう。確かな技巧に支えられた戸田の作品の中では、ちょっとした筆致のニュアンスの差が大きな効果を生んでいます。そこにあってスクリーンプリントの肌理は非常に大きな違和感を与えています。戸田が自作について繰り返し「置き換える」と言っているように、拾ったイメージを別物に描き変え、定石を無視した重ね合わせの構成によってそのイメージが帰属する意味性も全く別物に作り変え、画面上では技術も手法も変幻自在に操る、その改変の繰り返しが最終的には絵画らしさからも逸脱しかねない程の「Stranger」を生み出すのです。
つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。
敬具
2019年2月
児玉画廊 小林 健
- Closing Days
- 日・月・祝休廊
- Opening Hours
- 11時 ~ 19時
- Exhibition Website
- http://www.kodamagallery.com/toda201902/index.html
Events
オープニング: 2月23日(土)18時より
Access Information
児玉画廊 コダマガロウ | トウキョウ
KodamaGallery | Tokyo
- Address
-
〒108-0072
港区白金3-1-15 - Website
- http://www.kodamagallery.com/
Created Date:2019.1.29