ID:54225

Ceramic Site 2017

Venue

ギャラリー白 ギャラリー白3 ギャラリー白kuro

Gallery HAKU

Period

2017年6月5日(月)ー6月17日(土)

Exhibition Outline

Ceramic Site 2017 Ceramic Site 2017

陶芸にとらわれない、ということ
マルテル坂本牧子

どの時代にも、その時代にしか感じられない空気や熱気、潮流があるように、同時代性というのは、それを共有する人々にとっては、リアルで絶対的な影響力を持つものである。しかし、第二次世界大戦直後の混乱期、戦時中の苛烈な体験を経て対峙する時代性とは一体、どんなものだろうか。既存の価値観は崩壊し、拠り所も何もない。だからこそ、眼前には途方もない「自由」が突きつけられる。生きることへの衝動、そして、創造への渇望。そのエネルギーはまさに想像を絶する。
そんな思いを馳せたのは、戦後の日本美術史において、そのストイックな制作姿勢で特異な存在感を示し、近年、高い注目を集めている二人の芸術家、陶作家の林康夫(1928-)と、画家の山田正亮(1929-2010)の両氏の作品をそれぞれ纏って見る機会を得て、同世代であるこの二人の、尽きることのない芸術への執念に思わず心打たれたからであった。立体(陶芸)と平面(絵画)で表現形式こそ異なるものの、一途にその中で制作を続け、背景となる時代と帯同しつつ、モダニズムを咀嚼した理知的な創造へと結実していく作品には、どこか通じ合うものがあるように思われた。日本画出身の林は「陶芸で純粋芸術」を目指し、山田は「絵画との契約」という独自の決意を持って、特に抽象表現の可能性をそれぞれに追求している。この二人には、制作することが生きることと直結するような悲壮感があり、恐らくそれが創造の源泉にもなっていると思われる。特に89歳となる現在も現役で制作を続けている林は、陶土による手捻りと化粧掛けという、ごくシンプルな陶芸の素材と技を駆使しながら、彫刻的要素と絵画的要素を融合させ、特異な空間へと見る者の視線を誘う魅惑的な立体造形を制作し続けている。林の「芸術への希求を陶で挑む」という姿勢は、全くブレることがない。
長いやきものの歴史において、もっとも大きな革新、新しい価値観の創造となった「前衛陶芸」という動きは、戦後の京都において、大きな時代のうねりの中から勃興したものだったが、林はその黎明期に若くして参加した一人であった。今でこそ、土(陶)を素材とした自由なフォルムの立体造形は珍しくなくなり、造形的にも、概念的にも、これほど陶芸がクローズアップされ、多様な展開を見せたことはないだろう。しかし、その始まりは、それほど遠い昔のことではないのである。そして、この「前衛陶芸」の本質には、大きく二つの方向性が見られ、その違いは現代においても明確である。
ーつは、器であることを前提としていた従来の陶芸からの脱却、つまり、壺の口を閉じ、用途を持つ器であることを否定するところから始まり、展開してきたものであり1948年に八木一夫・山田光・鈴木治・松井美介・叶哲夫の5人によって結成され、1998年に解散するまでの50年間にわたり、多くの同人たちが活動した「走泥社」によって牽引されてきた動向である。1954年に発表された八木の《ザムザ氏の散歩》、同年に発表された鈴木の《作品》などが、やきもので完全に器の形状を離れた最初期の作例として広く知られているが、最初は中国や朝鮮などの古陶磁に傾倒していた彼らが、新しい表現の可能性を求めてオブジェに辿り着くまでの過程を見るとき、これらが、いずれも陶芸の文脈の中から生まれた傾向であることが分かる。つまり、土(陶)の固有性や、陶であることの必然性を問うことによって、現代の造形としての強度を獲得しようとしていたのである。この動きは後に、「うつわ(空ろ)」がやきものの基本構造であるという新たな概念にも繋がり、やがて用途の有無や形状に関わらず、「うつわ」という概念が、一つの表現形式として確立していくこととなる。この傾向は、1990年代から2000年代にかけてじつに顕著となっていった。
もう一つは、土(陶)を造形素材の一つと捉え、絵画や彫刻などの他分野の芸術と同様、何を表現するのかをもっとも重視するという動きである。走泥社が結成される前年の1947年、当時、すでに名が知られていた宇野三吾をリーダーに、林康夫、清水卯一ら京都の若手陶作家11人によって「四耕会」が結成され、前衛いけばなをはじめとする、同時代の様々な他ジャンルとの積極的な交流を図り、従来の陶芸にとらわれない、革新的な造形思考を深めていったのである。1948年に発表された林の《雲》という作品は、上部に口が開いているため、形式上は「オブジェ花器」といえるものであったが、実際には人体のフォルムを抽象表現で追求したもので、実用的な器の延長上から発展したものではなかった。この傾向を引き継ぐ現代の作家たちは、しばしば陶芸の領域に収まらず、現代美術のフィールドにも活躍の場を広げている。
じつはこの二つの方向性は、「(従来の)陶芸にとらわれない」というところでは、交差する部分がある。しかし、陶芸にとらわれない、ということが、素材の特性を無視し、ジャンルの固有性を即座に手放すことを意味するものではない。作品にリアリティーを与えるためには、素材の把握や確かな技術は欠かせないが、そこには確固たる主題と、立体としての堅牢さが備わっていなければ、説得力はないのである。陶による純粋な立体造形が誕生してから70年ほどが経った今、現代の造形としての強度を持ち得るために必要なものとは何か。それは、新しい世代の、新しい仕事が、その答えを提示していかなくてはならない。
MakikoSakamoto-Martel(兵庫陶芸美術館学芸員)


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土曜日5:00p.m.まで

Events

初日6:00p.m.より、ささやかなパーティーを開催致しますので、ご出席下さい。

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Updated Date:2017.5.30
Created Date:2017.5.30