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陶芸の提案 2016 Ceramic Proposition 2016
―用を放擲して―
石井美緒 一色智登世 大澤紗矢香 北野藍子 木野智史
田中野穂 谷内薫 中島綾香 福岡佑梨 松本治幸
Venue
ギャラリー白 ギャラリー白3
Gallery HAKU
Period
2016.4.4 [Mon]―4.16 [Sat]
Exhibition Outline
陶芸の提案 2016 トウゲイノテイアン 2016 ―用を放擲して―
Ceramic Proposition 2016
「Ceramic Proposition 2016」
奥村泰彦
美術作品と一言でとらえるもののうちにも、いくつかの領域に分けて考える癖が私たちに染みついているように思われる。分類することによって物事の意味や内容を明確に理解しやすくなるだろうし、また分類すること自体が一つの理解の在り方を表明するものにもなるだろう。
だが物事を考える時に困るのは、そこで用いられる言葉の持つ意味や語感が必ずしも一意的に限定され定義づけられないことだ。
学問的な厳密さが求められる場合には一層、ある言葉が指し示すところを厳密に規定せねばならないのだが、これが一筋縄でいかないのである。ある言葉を使う時、人はその言葉の意味するところをしばしば自明のものとして発するのだが、必ずしもその意味内容が共有されているとは限らない。内包と外延の不一致と言ってみたりするが、それが文化的な豊かさになっていくという面もあって、一概に悪いことというわけではないし、ずれをどうとらえていくかこそが学問の仕事であるとも言うことはできる。ただ、言葉を発する人間がそれなりの知識や経験に基づいて得た語感といったものを明確に説明することは難しい。
前置きが長くなったが、工芸や陶芸といった、自明と考えられているであろう言葉についてはなおさらその言葉が含む問題を顕在化させることが難しいと思われるのである。美術を巡る言葉は、美術というその語自体も含めて、明治の開国以降、欧米の概念を輸入する形で翻訳され整えられてきたものだが、指示される対象の在り方自体も歴史の中で移り変わってきており、今日の私たちが一つの言葉をどのようにとらえ、理解しているのかということから語り起こしても、またその言葉の方も指し示すところが変わっていくという厄介さが常につきまとう。
あるいはそういった領域の存在自体を不問に付して、作家なり作品なりについて語ることも可能なのかもしれない。ただ、当の作家自身の出自がその作品を生み出す基盤となっているのであれば、そういったことにいささかも触れないのも誠実な態度ではないだろう。
太平洋戦争が終わった後、20世紀後半の京都で、作陶に関わった幾人かの作家たちが、従来の陶芸のありようとは異なった作品を試み始めた。従来のありようとは、まずは茶碗や皿や壷といった実用に供される道具を陶で作ることであった。そこで作られるものは、雑器と呼ばれる日常生活の中で使う食器類から、華道で用いられる花器、様々な茶道具など美術工芸品と呼ばれるような高級品まで、一言では言えない広がりをもっていた。中には実際の使用よりも、飾り、眺めて楽しむことを主眼に置かれたものもあった。置物や飾りと呼ばれる領域に属するものである。その名の通り、実用性以上に飾られ、眺められることが重要なものであったが、あるいは飾られ眺められるという点において実用的であったと言うことができるかもしれない。茶碗などと同様、それらも一定の規範に基づいて作られるものであり、そこから外れることはほとんど考えつかないことであっただろう。その考えつかないことをやり始めたのが、現代陶芸を生み出すことになる作家たちであった。
実用性とは、ある規則に従って使われ、眺められることであると定義するならば、実用性を捨てることによって現代陶芸は誕生し、一つの大きな飛躍をはたしたことは間違いない。
だが、その実用性こそが陶芸の存立基盤だったとすれば、実用性の否定は即座に陶芸自体の存立の否定に帰結するはずである。あるいは実用的な応用芸術としての工芸と、非実用的な純粋芸術という二分法に当てはめるなら、実用的な工芸としての陶芸から、純粋芸術としての陶芸への移行が試みられたととらえることもできるかもしれない。一方、純粋芸術の範疇として考えられる彫刻の一領域として、陶を用いた作品が作られるようになったのかといえば、そうとも言い難い。実際に作られてきた作品にしても、作者の意識の持ちようにしても、彫刻とは一線を画した、やはり陶芸と呼ばれることを要請するものなのである。
そこで陶芸を陶芸たらしめているものは何か、という問いを巡って制作されてきたのが現代陶芸と呼ばれる領域に属する作品であると言うのは、一面の真実ではある。存立の基盤に対する回答の多様さが、作品の多様さに帰結しているのだとも言えるだろう。個々の作品のありようは、同時に陶芸というもののありようを様々な角度から照らし出しているのではないだろうか。
そのような眺め方をしている筆者に対して、この展覧会に参加する10人の作家たちは、同じような問題意識を共有しているのかどうか。彼らの作品が、陶芸や、それにまつわる言葉の意味をずらし、広げ、新しい面を付け加えるようなものであることは、作品を語る基盤の共有を難しいものにするだろうが、それはむしろ作品の豊かさに起因するものであるだろう。あるいはここに述べたのとは全く異なった問題意識のありようを探ることができるかどうかに興味があったりするのだが、どうだろうか。
(おくむらやすひこ・和歌山県立近代美術館教育普及課長)
Access Information
ギャラリー白 ギャラリー白3 ギャラリーハク
Gallery HAKU
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Created Date:2016.3.29