ID:32852
糸の先へ Beyond a thread - Hands working the fabric of life
いのちを紡ぐ手、布に染まる世界
Venue
福岡県立美術館
FUKUOKA PREFECTURAL MUSEUM OF ART
Period
2012 平成24年 2月4日[土]―3月11日[日]
Exhibition Outline
糸の先へ イトノサキヘ いのちを紡ぐ手、布に染まる世界
Beyond a thread - Hands working the fabric of life
自然の短い繊維から一本の長い糸が生まれる瞬間を想像することから始めましょう。
植物であれ動物であれ自然から取れる繊維の大半は短く、弱いもの。ところがそれを複数本まとめて撚ったり束ねたりしていけば、長く丈夫な糸になります。太古の昔、この糸なるものをひとたび手に入れた人間は、以来さまざなま生活の場面にそれを活かしてきました。食料を得るために釣り糸や弓をつくり、音を奏でるために楽器をつくり、そしてなにより身を守ったり飾ったりするための衣服をつくりました。糸の発明は、生を永らえていくためになんと画期的な出来事だったことでしょう。
さて現代、あらゆるものが機械で生産可能となり、安価で便利な製品が溢れています。たとえば衣服も例に洩れず。機能的にもデザイン的にも優れたものがとても安く買えるようになりました。衣服は「第二の皮膚」として変わらず私たちの身体を暖かく、快適に、素敵に包みこみながら、ときには身体のありようを変えてしまうことさえあります。21世紀においては皮膚や身体こそが「第二の衣服」になったとの声にうなづくこともできるでしょう。
その一方で、まるで脱ぐために着るかのごとく衣服を次々と消費して、どこまでも「脱皮」しようとする私たちがいます。果たして脱皮しつくしたあげくに残るものは何なのか。未来を展望するためにも、いま一度糸の計り知れなさ、布の懐深さを見つめ直してみることは決して無意味ではないはずです。
この展覧会でご紹介するのは、糸や布を素材に作品をつくり続ける10組の作家たち。伝統工芸の世界で活躍する作家もいれば、工芸や美術といった枠組みのらち外に生きている作家もいます。
志村ふくみは素朴な屑織の技法を独自に開拓し、植物で染められた糸に導かれるように即興的に色を挿しながら複雑微妙な暈(ぼか)しを現わします。志村の手から生みだされるのは、紬織のまぎれもない着物であると同時に志村の無意識が求める原風景であり、誰もが記憶の底で見たかのような原風景にもなります。鈴田滋人の仕事は「異なる同じ仕事」と称されます。木版型を延々と打ちこんで黒い輪郭線を現わし、型紙を用いて色を摺りこんでいく木版摺更紗(もくはんずりさらさ)の仕事において鈴田が大切にしているのは、機械のごとき正確無比な繰り返しではなく、作業をつねに振り返り、微調整を施しつづけるプロセスです。しかして鈴田の型による仕事は型にはまらず、その時々の自身の関心を先鋭的に切り拓いていきます。
築城則子の小倉織は手織りならではの緻密で多彩な縞が独特の存在感を示します。縞の彩(いろど)りが眼の中で揺らぎ、薄い布の向こうに不思議な奥行きをかもす築城の帯は、まとう人をまるで宇宙のような深い気配の中に包みこみます。宇宙への関心と言えば、植物染料のなかでも特別な位置を占める天然藍(あい)にこだわって仕事をつづける松枝哲哉も同じく。藍という染料が人の想像力を悠久の時空へと誘うからか、松枝は近年身近な自然から大きな宇宙へとその感性を発揮し、久留米絣の作品に込めてきました。宇宙と人知の交差点に彼らの作品があります。
上原美智子と堀内紀子の作品の空気のような軽やかさ、光のようなきらめきは私たちの目に悦楽をもたらしてくれると同時に、存在というものについて考え直す契機を与えてくれます。上原が手がけるあけずば織の「あけずば」とは沖縄の言葉で「蜻蛉羽」を意味します。物理的には在るか無しかも頼りなげな布がそれに触れた瞬間に手を暖かく包み込み、その存在を一挙に伝えてくれるありようは、私たちに感動すらもたらしてくれるでしょう。一本の糸から建築空間に比肩しうる大きな作品を編み出す堀内も、糸の網の目がつくる隙間、その最小限の空間にファイバーワークの本質を見出しています。本展出品作の《浮上する立方体の内包する空気》はそのはかなげな美しさもさることながら、「空気」を作品化しようとする堀内の志向性を如実に示しているのです。
福本繁樹と福本潮子は従来の染めの枠組みに収まりきらない、しかしその実染めの本質を深く掘り下げた仕事を展開しています。あらゆる技法を実験的に試みる蝋染(ろうぞめ)の福本繁樹は、決して作家の思い通りには制御できない素材上の不自由さを肯定的にとらえ、自ら手を施していないことが作品に定着される面白さを表現として取り入れています。藍染の福本潮子は近年対馬麻をはじめとする自然布に着目し、タピスリーとして作品化しています。藍で染めるという自身の仕事を介して福本が出現させようとするのは、布そのものが持つ力強さや布が生きてきた遠大な時間なのです。
「繊維(ファイバー)」を広くとらえれば、関島寿子がつくるかごも歴としたファイバーワークと言えます。関島は身の周りのあらゆる自然繊維を作品の素材としつつ、定型となったわざを適用するのではなく、組む・縫う・絡める・結ぶ・曲げるなどの行為を自在に組み合わせ、自然との対話や世界についての思索を手探りでかたちにしていきます。一方で糸や布を素材にしながら「工芸」というジャンルから程遠いのがヌイ・プロジェクトの作品です。障がい者支援施設「しょうぶ学園」から生まれた刺繍によるこのプロジェクトからは高田幸恵、野間口桂介、吉本篤史の3人をご紹介します。徹底的に個的なこだわりと行為衝動から生みだされる彼らの作品は、モノとしての異様なまでの迫力を醸しながら、「縫う」という行為の永続性(への期待あるいは安堵)を同時に獲得する稀な例としてあります。過去の時間の堆積が作品となり、作品が未来の時間をも先取りするようです。
10組の作家のスタイルはまさしく各人各様。しかし彼らは一様に糸や布に導かれて手を動かし、手を動かすことでその内側に染み込んでいこうとするのです。糸や布を作品制作のための単なる素材として扱うのではなく、糸や布の生に手を添えて深くかかわり、自身の生を重ね合わせる。作品とはその果てに生まれてきた所産であり、だからこそそこからは糸や布と交わることの悦びが溢れ、生きることの愉しさが染みだしてくるのでしょう。
糸が自然と人との交わりによって紡がれたものであるのに似て、彼らの作品もまた素材と手との交わりによって生まれ、ふたつの生の真ん中に(あるいは混ざり合ったものとして)浮かんでいるのかもしれません。そしてそれは、裏と表とが響きあい、ときには反転さえする薄く軽やかな布のありようにも通じています。
作家たちの手と意志とに導かれ、糸や布そのものが持つ美しさを知り、さらにその奥に広がる生の奥行きへと踏み込んでいきましょう。
竹口浩司(担当学芸員)
- Closing Days
- 毎週月曜日
- Opening Hours
- 午前10時 ~ 午後6時
- 入場は午後5時30分まで
- Admission (tax included)
- 一般700円(500円) 高大生500円(300円) 小中生300円(200円)
- ※( )内は20名以上の団体料金 ※65歳以上の方は特別割引料金(500円) ※次の方々は無料=身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方およびその介助者、教員引率による児童・生徒・およびその教員、土曜日来館の高校生以下の方
- Exhibition Website
- http://fpmahs1.fpart-unet.ocn.ne.jp/cont_j/topics/topics_det1_2.php?TOPICS_ID=299
Events
イベント・ワークショップ
■出品作家による座談会
「わたしと伝統工芸、わたしの伝統工芸」
2月18日(土) 14:00-15:30
【参加者】鈴田滋人、築城則子、松枝哲哉
【進行】宮原香苗(元 佐賀県立美術館学芸員) 【場所】4階視聴覚室(参加無料、当日先着80名)
■関島寿子(出品作家)によるワークショップ
「素材を変える」【事前予約A】
2月25日(土) 13:00-17:00
かごづくりは自由自材。素材と技法との組み合わせで、かたちが自在に変移していきます。素材とかたちの知られざる相関関係に、きっと誰もが「あっ!」と声を挙げてしまうでしょう。
※このワークショップでは、実用的なかごはつくりません。
【場所】4階視聴覚室 【定員】20名 【参加費】3,500円
【持ち物】はさみ、小刀、木づち(または金づち)、カッティングボード(ベニヤ板など代用品でも可)、マーカーペン(5色)、筆記用具 ※お持ちでない場合はご相談ください
■着物の文化を知るためのレクチャー
「能に親しむ会 特別編」【事前予約B】
3月3日(土) 14:00-16:00
福岡在住の能楽師(大鼓方)として活動されている白坂保行さんを講師にお招きして、能についての興味深いお話を、大鼓の実演やプロジェクターでの映像などを交えながらお楽しみいただきます。
【講師】白坂保行(能楽師 大鼓方高安流/公益社団法人能楽協会 正会員/重要無形文化財[総合認定 能楽]保持者)
【場所】4階視聴覚室 【定員】80名 【参加費】2,500円 【企画】望雲 http://bouun.com/
■布の創作ワークショップ
「染めてつくろうボックスアート」【事前予約A】
3月4日(日) 10:00-16:00
布と版画の意外な出会い。シルクスクリーンという版画の技法をつかって布を染めて、箱形の作品をつくりましょう。他にも色々なものを組み合わせて、布の新たな魅力を引き出します。
【講師】鳥谷さやか(染色作家) 【場所】4階視聴覚室 【定員】10名(15歳以上) 【参加費】1,000円
【持ち物】シルクスクリーンの版や素材、道具等はこちらで用意いたします。また、版となる原画を2月23日までに下記のE-Mailアドレスにお送りくださった方には、ご希望の版を作成します(ただし版に不向きな原画もありますので、ご了解ください)。
■OMODOCによるワークショップ
「みんなでつなげるアニメーション」
3月11日(日)
内容詳細は後日ホームページやブログ、ツイッターでご案内いたします。
※出来あがった作品例はYou Tubeを「OMODOC」で検索
【場所】当館正面玄関前および4階視聴覚室(参加無料) 【企画】OMODOC、アートサポートふくおか
申込み先
【事前予約A】「素材を変える」と「布でつくろうボックスアート」は、福岡県立美術館 学芸課(Tel 092-715-3551 / Fax 092-715-3552 / E-mail fpart-g@lime.ocn.ne.jp)まで。
【事前予約B】「能に親しむ会」は、「望雲」(TEL・FAX 092-733-1135 / E-mail bouun@cosmic-f.co.jp)まで。
ともに参加者氏名とご連絡先などをお知らせください。
□担当学芸員によるギャラリーツアー
2月4日(土)、2月19日(日)、3月10日(土) 14:00-14:40
【場所】4階展示室(参加無料、ただし当日の鑑賞券が必要です)
□アクロス・文化学び塾による講演会
「『糸の先へ』展のその先へ」【事前予約】
2月11日(土・祝) 14:00-15:30
【講師】竹口浩司(本展担当学芸員) 【場所】アクロス福岡 セミナー室2 【定員】70名 【受講料】500円
【申込み先】アクロス福岡 文化観光情報ひろば(TEL 092-725-9100)
Access Information
福岡県立美術館 フクオカケンリツビジュツカン
FUKUOKA PREFECTURAL MUSEUM OF ART
- Address
-
〒810-0001
福岡市中央区天神5-2-1 (須崎公園内) - Website
- https://fukuoka-kenbi.jp/
Created Date:2012.2.11