展覧会概要
人類の歴史は、イメージの歴史でした。イメージは文字に先行し、さらには言葉の源になったと考えられます。世界の本質や構造にかたちや色を与えて視覚化することは、人間に与えられた根源的な資質のひとつなのです。
イメージの創造とその享受のあり方に、人類共通の普遍性はあるのでしょうか。この壮大な問いをテーマに掲げた本展覧会では、世界のさまざまな地域で生み出された造形物を紹介します。展示されるのは、世界各地の資料を擁する国立民族学博物館の膨大なコレクションから選りすぐられた逸品です。同博物館と国立新美術館との共同企画である本展覧会は、イメージを地域や時代ごとに分類するのではなく、共通した造形性や効果、機能に着目して提示します。これは、造形物に対して私たちが持っている固定観念を問い直す試みでもあります。
国立新美術館の広大な展示室には、博物館でお馴染みの仮面や神像から、今活躍中の美術家の作品までが、美術館と博物館の垣根を超えて一堂に会します。儀礼に供されてきたイメージの圧倒的な生命力、文化交流から生まれたハイブリッドな造形の奥深さ、グローバル化した現代社会とともにあるイメージの活力を体感することによって、人類の文化に普遍的な「イメージの力」をご堪能ください。
会期 | 2014年2月19日(水)~ 6月9日(月) 毎週火曜日休館 ただし、4月29日(火)および5月6日(火)は開館、5月7日(水)は休館 |
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開館時間 | 10:00~18:00 金曜日は20:00まで 4月19日(土)は「六本木アートナイト2014」開催にともない22:00まで開館 入場は閉館の30分前まで |
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会場 | 国立新美術館 企画展示室2E 〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2 |
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主催 | 国立新美術館、国立民族学博物館 | ||||||
共催 | 日本文化人類学会 | ||||||
後援 | NHKプロモーション | ||||||
協力 | 国立情報学研究所、千里文化財団 | ||||||
観覧料(税込) |
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お問合せ | ハローダイヤル 03-5777-8600 |
※本展覧会は、2014年9月11日(木)から12月9日(火)まで、国立民族学博物館でも開催。
展覧会の見どころ
- 1. 美術館と博物館のコラボレーション
- 2007年に開館した国立新美術館は、近現代美術を中心にした展覧会の開催に努めてきました。一方、2014年に創設40周年を迎える国立民族学博物館は、世界各地の造形物や生活用具など、約34 万点を所蔵する世界最大級の民族学博物館です。まったく異なった2つの機関が共同で企画した本展覧会は、博物館の収蔵品がもっているアートとしての側面に着目し、これを美術館の展示室で展示しようという斬新な試みです。
- 2. イメージの根源を問う
- 国立新美術館は、人間が生み出した素晴らしい視覚芸術に対して、新たな見方を提示する展覧会の開催を目指しています。本展覧会は、世界のさまざまな地域とさまざまな時代を射程に入れて、人間とイメージとのダイナミックな関係に迫るものです。有史以前から人間は、色とかたちを駆使してイメージを生み出し、そこから新たな活力を得てきました。本展覧会は、そうしたイメージの力を壮大な規模で問いかけます。
- 3. 国立民族学博物館のコレクションを大規模に紹介
- 本展覧会では、大阪の国立民族学博物館のコレクションから、約600点にも及ぶ収蔵品を展示します。国立民族学博物館は、大学共同利用機関として文化人類学の研究を進める一方、世界の諸民族が生み出した造形物や生活用具を収集・公開してきました。関西で「みんぱく」として親しまれている同館のコレクションをこれほどの規模で紹介するのは、東京では今回が初めてです。本展覧会では、天井高8メートルにも及ぶ大きな展示室で、圧倒的な質と量を誇るみんぱくコレクションから選ばれた逸品の数々をご紹介します。
各章の内容について
プロローグ――視線のありか
- 人間は、イメージを創造するとともに、自らが生み出したイメージから力を得て生きてきました。イメージの創造とその享受という、人間とイメージとのダイナミックな関係を問いかける本展覧会のプロローグでは、世界各地から集められた仮面で壁一面を覆いつくします。私たちは、強烈な眼力(めぢから)をもった色とりどりの仮面に四方から取り囲まれることにより、イメージに見られるという新鮮な感覚を覚えることになるでしょう。仮面の圧倒的な眼差しに晒されることで、私たちに迫り来るものとしてのイメージを体感することができます。
第1章 みえないもののイメージ
- 1-1: ひとをかたどる、神がみをかたどる
- 世界には、眼に見えないものを視覚化した造形物が数多く存在します。人間は、眼に見えないものにイメージを与え、それと関わることで、見えないものの力をコントロールしようとしてきたのです。神がみや精霊のイメージは、こうした人間の意思が込められた代表的な例でしょう。人びとは、自らの身体に似せて神がみのイメージを視覚化し、生きるための縁(よすが)としてきました。このセクションでは、人間が生み出した大いなる力のイメージに圧倒されることでしょう。
- 1-2: 時間をかたどる
- 地域や民族、宗教に固有の物語も、神がみや精霊同様に、眼に見えない領域に属しています。人びとは、生活を営む上で大きな意味を担っていた物語を、視覚的なイメージに留めようと努めてきました。それによって、物語は後世に伝えられていったのです。このセクションでは、仏陀の生涯を描いた仏伝図や曼荼羅、あるいはアボリジニの樹皮画など時間や物語をイメージに定着させる試みを世界各地に探ります。
第2章 イメージの力学
- 2-1: 光の力、色の力
- 光や色は、私たちの眼を引きつける強烈な力をもっています。たとえば鳥の羽による頭飾りや色とりどりのビーズで覆われた装身具が放つ光や色は、聖なるものとのつながりの表現として、あるいは、力や富の象徴として用いられてきました。また、邪悪なものを跳ね返すために、衣服や日用品に鏡や金属を貼り付ける行為は、世界各地で確認されています。このセクションでは、光や色が与える視覚的効果に人びとが見出そうとしてきたものを検証します。
- 2-2: 高みとつながる
- イメージには、私たちの視線をある一定の方向へ導く働きもあります。墓標などの高さを強調した造形物は、高みの世界、すなわち、他界へと繋がる回路を想起させます。死者の霊を地上から他界へと送りだしたり、神がみが地上に降り立ったりする道筋としてのイメージは、さまざまな地域と文化に普遍的に確認することができます。世界各地で集められた墓標や木彫などが林立する空間は、はるか上方の世界と、今ここに立つ私たちとのつながりを喚起することでしょう。
第3章 イメージとたわむれる
- 人間は、ある特定の目的のためにかたちを作り出すだけでなく、イメージを生み出し、それを享受することに歓びを感じてきました。コンゴ民主共和国の民族クバの人びとの女性用前掛け布には、多様なアップリケが施されています。この前掛け布には、穴をふさぐというアップリケの実利的な目的を超えて、作り手の創意工夫の跡がはっきりと示されています。このセクションでは、クバの女性用前掛け布からイースターエッグまで、作り手がイメージを生み出すことに歓びや楽しみを見出していることがうかがえる世界各地の作例を取り上げます。
第4章 イメージの翻訳
- 4-1: ハイブリッドな造形
- 人の移動や交流によって、かつて出会うことのなかったもの同士が交わり、新たなイメージが生みだされるということは、世界各地で確認されます。たとえば、英国国旗のイメージを「強さ」の象徴と解釈したガーナの民族ファンティの人びとは、それを自らの軍旗に取り入れています。本セクションでは、文化の交流の結果生み出されるハイブリッド(異種混合的)な造形に着眼し、外の世界のイメージを取り込むことで、新たな表現が生み出されていく様相を確認します。
- 4-2: 消費されるイメージ
- イメージは、通信や物流、生活様式の変化と深く関わっています。今日、消費の対象としてのイメージは、世界を均一に覆う勢いで拡散しています。セネガルやベトナムで観光客用のお土産として売られているブリキやアルミニウムの缶を利用した玩具は、世界中で商標が知られた飲み物の空き缶を用いて制作されています。これは、大量消費社会を背景としたポップアートを想起させます。このセクションでは、イメージが、めまぐるしく動くグローバル社会の中で消費されつつ、新たな姿と機能を獲得していくさまに迫ります。
エピローグ――見出されたイメージ
- 人間が作り出したイメージは、必ずしも、地域や文化を超えて、同じように受け止められ、解釈されるわけではありません。それは、誤解され転用されるだけでなく、時には、まったく新たな意味や価値を与えられ、その存在を大きく変えられることもあります。このセクションでは、あらゆるものを「作品」として機能させる美術館という場を利用して、博物館に収められた梯子やザルといった実用的な資料を、現代美術のインスタレーションの手法で展示します。それは、イメージの受容がきわめて主観的な行為であることを示すと同時に、イメージというものが常に新たな文脈に対して開かれていることに気づかせてくれるでしょう。展覧会のエピローグとしての本セクションは、美術館という場の機能と意味を問いかけ、イメージと私たちの関係をもう一度見つめなおします。
関連イヴェント
「イメージの力-国立民族学博物館コレクションにさぐる」開幕記念イベント
みる・きく・あそぶ イメージの力ウィークエンド
2014年3月8日(土)・9日(日) 場所:国立新美術館
参加無料、事前申し込み不要
URL:https://www.nact.jp/release/exhibition_special/2014/power_of_images/weekend/
3月8日(土)
■ワークショップ「折りジナルフェイスをつくろう!」 (11:00~12:00/13:30~14:30/16:00~17:00)
■アラブ古典音楽のコンサート (12:00~13:00/15:00~16:00)
3月9日(日
■親指ピアノと世界各地の民族楽器のコンサート (11:00~12:00/13:00~14:00)
■カフェアオキ (15:00~16:30/開場14:30)
3月8日(土)・9日(日)ともにスタンプラリー開催
関連シンポジウム
「新たなイメージ論に向けて」
出演者:水沢勉(神奈川県立近代美術館 館長)、水野千依(京都造形芸術大学教授)、長屋光枝(国立新美術館主任研究員・企画室長/本展覧会担当者)、青木保(国立新美術館長)
2月22日(土)14:00~17:00(13:30開場)
国立新美術館3階講堂
先着260名(事前申込不要)
URL:https://www.nact.jp/release/exhibition/2014/power_of_images/symposium.html
※聴講は無料ですが、本展の観覧券(半券可)が必要です。
※内容や日時は都合により変更になることがあります。
関連講演会
「イメージの力」展にイメージの力をさぐる
講演者:吉田憲司(国立民族学博物館文化資源研究センター教授)
4月5日(土)14:00?15:30(13:30開場)
国立新美術館3階講堂
先着260名(事前申込不要)
※聴講は無料ですが、本展の観覧券(半券可)が必要です。
※内容や日時は都合により変更になることがあります。
吉田憲司(国立民族学博物館教授)
1977年京都大学文学部哲学科卒業、87年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。学術博士。アフリカを中心に、仮面や儀礼、キリスト教独立教会の動向についてのフィールド・ワークを続ける一方、ミュージアム(博物館・美術館)における文化の表象のあり方を研究し、その作業から得られた知見を反映した展示活動を国内外で展開している。主な著作に『仮面の森―アフリカ、チェワ社会における仮面結社、憑霊、邪術』(講談社、1994年。日本アフリカ学会研究奨励賞受賞)、『文化の「発見」―驚異の部屋からヴァーチャル・ミュージアムまで』(岩波書店、1999。第22回サントリー学芸賞、第1回木村重信民族藝術学会賞受賞)。主な展覧会に、「異文化へのまなざし」(国立民族学博物館、世田谷美術館、1997-1998)、「アジアとヨーロッパの肖像」(国立民族学博物館、国立国際美術館ほか、2008-2009)など。
関連ワークショップ
関連ワークショップわたし みんな めぐる イメージ―世界のものと向き合おう―
3月15日(土)11:00~16:30
3月16日(日)11:00~16:30
各回定員20名
参加費:500円
※要事前申し込み
URL:https://www.nact.jp/release/20140315.html
ワークショップの内容・申し込み方法については、詳細ページをご覧ください。
関連シンポジウム
「アートと人類学:いまアートの普遍性を問う」
4月12日(土)14:00~16:30(13:30開場)
国立新美術館3階講堂
主催:日本文化人類学会
先着260名(事前申込不要)
※聴講は無料ですが、本展の観覧券(半券可)が必要です。
※内容や日時は都合により変更になることがあります。
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発表者 久保明教(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
「美術館とフィールドの狭間で」
登久希子(大阪大学人間科学研究科)
「『芸術作品』について再考する」
里見龍樹(日本学術振興会)
「イメージと向き合う人類学」コメンテーター 青木保(国立新美術館)
港千尋(多摩美術大学)
風間洋一(東京大学)モデレーター 春日直樹(一橋大学社会学研究科)
日本文化人類学会 anthropologyart@gmail.com
ギャラリートーク
話者:ハワード・モーフィ(文化人類学者・オーストラリア国立大学教授)
5月18日(日)14:00~15:00
国立新美術館 企画展示室2E(集合場所は企画展示室2E入口)
言語:英語(英語から日本語への逐次通訳があります)
詳細は決まり次第ご案内します。最新情報については、当館ホームページ、または、展覧会Facebookをご覧ください。
※イヴェントの内容や日時は都合により変更になることがあります。
取材に関するお問い合わせ
国立新美術館 広報担当:桐生、菊池
〒106-8558 港区六本木7-22-2
Tel:03-6812-9925 Fax:03-3405-2531
E-mail:pr@nact.jp