「アーティスト・ファイル」展は、新しい美術の動向を紹介する国立新美術館が、毎年継続する重要な展覧会として、昨年スタートしました。第2回目を迎える今年は、現代美術の世界で活躍する作家9名に参加を呼び掛けました。今後も回を重ねることで現代のアーティスト・ファイルを形づくっていくことを目指します。
展覧会概要
「アーティスト・ファイル」展は、国立新美術館の学芸スタッフが日頃のフィールドワークの中で注目する作家たちを取り上げ、それぞれを個展形式で紹介する展覧会です。昨年の第1回展に引き続き開催する今回は、国内外で活動する9名に参加を呼びかけました。このたび選ばれた作家たちの年齢は30代前半から50代後半までとかなりの幅があり、また作品の有りようも平面、立体、映像、インスタレーションと様々ですが、いずれも自身の道を真摯に追求し、独自の表現スタイルを獲得するに至っています。彼らの仕事を通じて、今日の美術状況をご覧いただくと共に、現代の作家たちがいかに社会に向き合い、どのようなまなざしを持って制作を続けているか確認いただきたいと思います。
本展は、「さまざまな美術表現を紹介し、新たな視点を提供する美術館」という当館の活動方針に沿って、毎年定期的に開催する予定ですが、一方で美術情報の収集事業の一環として、展覧会に参加した作家の資料を将来にわたりアーカイブ化し、広く社会に提供していくことも構想しています。つまり「アーティスト・ファイル」展は、当館が日本のアートセンターとしての役割を果たす大切な事業であり、我々スタッフの視点や活動の真価が問われる展覧会として、総力を挙げて取り組んでいきたいと思っています。
会期 | 2009年3月4日(水)~5月6日(水) 毎週火曜日休館 ※ただし5月5日は開館 |
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開館時間 | 10:00から18:00まで ※金曜日は20:00まで。入館は閉館の30分前まで。 ※3月28日(土)は「六本木アートナイト」開催にともない22:00まで開館 |
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会場 | 国立新美術館 企画展示室2E(東京・六本木) 〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2 |
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主催 | 国立新美術館 | ||||||||
助成 | モンドリアン財団 Assisted by Mondriaan Foundation, Amsterdam |
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同時開催 | 『ルーブル美術館展 美の宮殿の子どもたち』 2009年3月25日(水)- 6月1日(月) |
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お問合せ | ハローダイヤル 03-5777-8600 | ||||||||
観覧料(税込) |
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展覧会の見どころ
現代に生きる作家たちを紹介するアニュアル展
多様な表現、多様なテーマ、多様なメディア
「アーティスト・ファイル」展は、統一的なテーマを設けておらず、作家はそれぞれ独自の世界を展開します。絵画、彫刻、写真、映像、インスタレーションと、多様な美術表現の可能性をご覧ください。
内外で活躍する幅広い世代の作家を紹介
「アーティスト・ファイル」展では、国内の美術状況にとらわれず、海外作家や海外で活躍する日本人作家を含め紹介します。今回は、今後の展開が楽しみな30代前半の若手作家から、50代後半のベテラン作家まで、幅広い世代の作家が集まりました。
一人一人の作家をじっくりと紹介
9人の作家に、独立した空間を提供し、一人一人の作品をじっくりと鑑賞できる展示を実現します。それぞれの作家にとっても、これまでに経験のない天井高8メートルという巨大な空間での展示が、今後の創作活動において新しい展開を促すことを期待するものです。
丁寧な図録編集
作家一人一人が別冊の、9分冊からなる図録を出版する予定です。それぞれの作家ファイルには、16ページのカラー図版とともに、略歴・文献目録、解説エッセイが収録されます。毎年積み重ねられていくこれらの図録そのものを、文字通りのアーティスト・ファイルと呼ぶこともできるでしょう。また、今回の展示の状況を掲載した記録集も、会期半ばに出版される予定です(別売)。
出品者紹介
- ペーター・ボーゲルス(Peter BOGERS)
- 1956年 - オランダ、ドルドレヒト生まれ。現在アムステルダム在住
オランダのセント・ヨースト・アカデミーで彫刻を学んだ後、ボーゲルスは1980年代前半から、主にオランダ、ドイツを中心に彫刻・インスタレーション、メディアアート、パフォーマンス作品を発表してきました。ボーゲルスの作品は、時間や空間、言語、宗教などで成り立っている世界を解体し、「瞬間」や「動作」「言語」等をキーワードに再構築して見せます。ボーゲルスの作品が日本で紹介されるのは、1998年にICCで開催された世界巡回展「ザ・セカンド--オランダのメディアアート」以来、今回が2回目となります。本展では、映像作品《共有された瞬間》(2002)と《統一された場》(2006)を展示します。 - 平川滋子(HIRAKAWA Shigeko)
- 1953年 - 福岡県生まれ。現在、フランス、パリ近郊シャトゥネー=マラブリー在住
1983年に渡仏した平川滋子は、油彩画からレリーフ絵画、さらにはインスタレーションへとその作品が展開していくなかで、母国とは異なった環境や風土に目を開かれて、ランド・アートや環境アートに活躍の場を移してきました。フランスを拠点に、主としてヨーロッパ各地やアメリカで発表を続けていますが、今回出品される《光合成の木》も、2006年以降、アルジャントゥイユ(フランス)やニューヨークなどで実現をみている野外インスタレーションです。国立新美術館のテラスやエントランスにある樹木から3本を選び、枝々に取り付けられた数千個の円盤が、太陽光線を受けて乳白色から紫色へと美しく変化します。それは、太陽の光を浴びて二酸化炭素を酸素に変える、緑の植物の「光合成」の働きを可視化したものであり、地球環境について改めて考える機会となるでしょう。 - 石川直樹(ISHIKAWA Naoki)
- 1977年 - 東京都生まれ。現在、東京都在住
10代の頃より旅することを始めた石川直樹は、ガイドブックに載らない極地から都市部までさまざまな地域を訪れ、写真や文章によってその体験を語ってきました。世界中を旅することで培った、自由な視点と身体感覚が捉えるありのままの地球上の光景には、石川の自然や人間、ひいては世界に向けられた冷静な態度がうつしだされています。今回の展示は、北極で撮影した〈POLAR〉や洞窟壁画をテーマにした〈NEW DIMENSION〉、地域に特有の住居形式を撮った〈VERNACULAR〉や初の国内テーマとなる富士山を題材とした〈Mt. Fuji〉の各シリーズにより構成されます。 - 金田実生(KANEDA Mio)
- 1963年 - 東京都生まれ。現在、東京都在住
紙やカンヴァスを支持体に油絵具やクレヨンによって描かれる金田の作品は、人の顔や植物などが認められる具象的なものであれ、一見、何が描かれているのかわからない抽象的な作品であれ、私たちの身近に生息するものの気配を感じさせます。それらは、儚く神秘的な雰囲気を持ちつつも、画面の奥底から突き上げてくるような生命力に満ち溢れています。本展では、独自の描法を追求した近年の作品を中心に、新作数点および一輪のバラを毎日観察して描いた《空とバラの32日》(2008)などによって、金田作品の魅力を紹介します。 - 宮永愛子(MIYANAGA Aiko)
- 1974年 - 京都府生まれ。現在、京都府在住
これまでの宮永の創作活動は、大まかに3つのタイプに集約されます。①身近にあるものをナフタリンで象り、時の経過によってそれらが揮発し変化していくシリーズ、②サイトスペシフィックな作品で、その土地の、例えば隅田川の水から塩の結晶を抽出し作品化したインスタレーション、そして③幼少時から身近な存在である陶器が生み出す貫入(土と釉薬の収縮率の違いから生み出されれるひび)の音を聞く作品です。いずれにおいても、普段、私たちがその存在を強く意識することのない日常にあるものたちのもつ一瞬の様相に着目するもので、私たちはそれらの存在を改めて認識せざるを得ません。同時に、それらはナフタリン、塩、音などといったライフサイクルの短い素材で表現されているため、私たちは否が応でも時間の経過を、そしてその儚さを考えさせられるのです。今回の展示では、①ナフタリンと③貫入音を用いて新作を展開します。 - 村井進吾(MURAI Shingo)
- 1952年 - 大分県生まれ。現在、神奈川県川崎市在住
一貫して石を素材に彫刻作品を創造し続けてきた村井の作品は、主に黒御影石を素材とし、直方体など幾何学的な形態を特徴とします。重さ数百キロもある扱いにくい素材を、創り手の痕跡をほとんど残さず、厳格なまでに切り詰めたミニマルな形状をとる村井の作品は、寡黙であるにもかかわらず、強い存在感を放ちます。そして観る者に、村井の作品が新たに存在することによって切り拓かれた空間を認識させ、作品と空間の対話、バランス、緊張関係を意識させます。本展では、奥行き42メートルの巨大な空間に村井の作品を展示し、普段、屋内ではなかなか目にすることのできない新たな様相をご覧いただきます。 - 大平實(OHIRA Minoru)
- 1950年 - 新潟県生まれ。現在、アメリカ、カリフォルニア州パサデナ在住
金沢美術工芸大学と東京藝術大学大学院で彫刻を専攻後、1970年代末にメキシコ国立エスメラルダ美術学校で石版画を学んだ大平は、1982年にアメリカ・ロサンゼルスに渡りました。以来、同地を拠点に、主に木や石を素材に用いた彫刻を制作しています。大平の作品は、山、砂漠などで拾った小さな木片や樹皮を貼りつけたもの、廃材をなたで割り、チップ状に細かくして接着剤や麻紐でつなぎ合わせた蓑のような表面をもつもの、さらにスレートを組み合わせたものなどがあり、それらの有機的な形態は、自然の強靭な生命力を感じさせます。本展では、新作の《砂漠の木》(2008)、《地上の雲》(2008)など近年制作された大きな作品4点を中心に展示します。 - 齋藤芽生(SAITO Meo)
- 1973年 - 東京都生まれ。現在、東京都在住
学生時代から独自の絵画世界を追求してきた齋藤の作品には、緻密で色鮮やかな花や花輪、団地などが登場しますが、よく見ると、そこには今日では既にさびれてしまった大衆文化の匂いや、どこにでもありそうな毒気を帯びた物語が潜んでいます。本展では、齋藤の絵画の世界を新たにインスタレーションとして展開させる試みで、作家が学部生時代に1日1枚描き上げた〈百花一言絶句〉(1993-95年)から、「花輪」シリーズ(1997年-)、〈晒野団地四畳半詣〉(2006年)など最新作までを回顧的に網羅し、齋藤芽生の世界を体験していただく予定です。 - 津上みゆき(TSUGAMI Miyuki)
- 1973年 - 東京都生まれ、大阪府に育つ。現在、神奈川県横浜市在住
多彩な画材を操り、鮮やかな色面と奔放な筆致を巧みに構成した津上みゆきの絵画作品は、明確な形態をもたないため抽象的なイメージの世界のように感じられますが、これらはすべて作家が実際に体験した風景を題材に描かれています。本展では、岡山県倉敷市に約50日間滞在し制作した連作《View--"Cycle"26 Feb.-10 Apr. 05》(2005年)全4点、太陽の動きと人や自然の営みとの強いつながりを意識した作家が、日本古来の暦に縁深い二十四節気※をテーマに制作した《View--24 seasons, 2005-08》(2005 - 2008年)シリーズを中心として、みずみずしく研ぎ澄まされた感覚をもって形成された、独自の「風景画」世界をご紹介します。
※二十四節気=太陽の運行をもとに一年を二十四等分し季節を示したもの
関連イベント(予定)
- アーティスト・トーク
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作家 ペーター・ボーゲルス、平川滋子 日時 3月7日(土) 14:00-16:00 会場 3階研修室A・B
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作家 村井進吾、宮永愛子 日時 3月28日(土) 20:00-21:00 会場 2階展示室2E
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作家 津上みゆき×佐野みどり(学習院大学教授・日本美術史) 日時 4月4日(土) 14:00-15:00 会場 3階講堂
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作家 石川直樹 日時 4月10日(金) 18:00-19:00 会場 3階講堂
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作家 齋藤芽生、金田実生 日時 4月18日(土) 14:00-16:00 会場 3階研修室A・B
- アーティスト・ワークショップ
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作家 大平 實 日時 3月8日(日) 13:30-16:30 題名 「ミニチュア・ムシワールド ~虫からみた世界をつくろう~」
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作家 村井進吾 日時 4月5日(日) 13:30-17:00 題名 「石から生み出すいろいろなカタチ」
※詳細は確定しだい随時更新していきます。
取材に関するお問い合わせ
国立新美術館 広報担当
〒106-8558 港区六本木7-22-2
TEL: 03-6812-9925 / FAX: 03-3405-2532 / E-mail: pr@nact.jp